更新日:2021.11.17/公開日:2017.3.1
トレチノイン/ハイドロキノン外用療法について
トレチノインとハイドロキノンは色素病変の治療に使用されます。当院では肝斑と炎症後の色素沈着に使用しています。シミの治療には使っていません。グーグルの解析を見ると、このページは多くの方が見ていらっしゃるようです。ご覧いただきありがとうございます。おそらくご覧の方はシミをハイドロキノンあるいはハイドロキノンとトレチノインで治療する(消す)ことにご興味がおありだと思います。実際のところ、外用のみでシミを少し薄くすることはできても、消すことは不可能に近いと思っています。ここではトレチノイン、ハイドロキノンの作用となぜ肝斑治療には使い、シミ治療には使わないかを解説します。
トレチノインとは
トレチノインの作用
トレチノインはビタミンAの誘導体で、以下の作用があります。このなかで「皮膚のターンオーバーを促進する作用」は色素性疾患の治療に有用です。皮膚のターンオーバーが早くなると、皮膚の角層のメラニンが垢となって剥がれて、角層のメラニン量が減少します。
- 皮膚のターンオーバーを促進
- 表皮の細胞分裂を促進し皮膚の再生を促す
- 皮脂腺の働きを抑え皮脂の分泌を抑える
- 真皮のコラーゲンの生成を促す
- 表皮内でヒアルロン酸などの分泌を高める
-
0.04%トレチノインゲル
トレチノインの副作用
塗布部位の痒み、紅斑、熱感、表皮剥離が起こることがあります。表皮剥離(角層の剥離)によりトレチノイン外用部位の皮膚は菲薄化します。角層には皮膚を外界の刺激から保護する機能があるので、菲薄化した皮膚は外界の刺激に敏感になり、赤ら顔の原因になります。また、角層の過剰な剥離により、真皮にある毛細血管が透けてみえるようになり、これも赤ら顔の原因になることがあります。長期使用により作用が減弱することがあります。
ハイドロキノンとは
ハイドロキノンの作用
ハイドロキノンは、安全性の高い美白剤と思っています。ハイドロキノンには以下の作用があります。これらの作用は表皮基底層のメラニン細胞のメラニン産生を抑制し、色素性疾患の治療に用いられます。
- メラニンを合成するチロシナーゼ(タイロシネース)という酵素の活性を抑制
- メラニン細胞を破壊
- メラニンの凝集したメラノソームを分解する

ロート社ハイドロキノン

サンソリット社ハイドロキノン
ハイドロキノンの副作用
ハイドロキノンにより接触皮膚炎が起こることがあります。かゆみ、紅斑などの皮膚炎症状がでます。
シミや肝斑への効果
シミと肝斑の原因
シミ(老人性色素斑と脂漏性角化症)と肝斑は外見は似ていますが、原因が違います。
老人性色素斑は表皮基底層の角化細胞、メラニン細胞が長年紫外線にさらされることで遺伝子に異常が起こり、メラニン細胞から過剰なメラニンが産生され、皮膚のメラニン量が増加して色が濃くなった状態です。脂漏性角化症はこれに皮膚の老化による腫瘍性増殖が加わっています。いったん紫外線で遺伝子異常を起こした異常角化細胞と異常メラニン細胞はもとには戻りません。
肝斑は洗顔時、化粧時に顔を摩擦することで擦りすぎによる「皮膚のバリア破壊」の結果出現する「炎症後色素沈着」です。紫外線は直接な原因でなく増悪因子と考えられます。皮膚には摩擦により慢性的な炎症が起こっていて、メラニン細胞は炎症により活性化してメラニン産生量が増えて肝斑の色調をつくっています。正しいスキンケアをおこない、紫外線を防御することで活性したメラニン細胞は正常となり、メラニン産生も正常となります。
色素斑の種類 | 老人性色素斑 | 脂漏性角化症 | 肝斑 |
原因 | 紫外線による角化細胞、メラニン細胞の遺伝子異常 |
紫外線による角化細胞、メラニン細胞の遺伝子異常 |
洗顔時、化粧時に顔を摩擦することで擦りすぎによる「皮膚のバリア破壊」の結果出現する「炎症後色素沈着」 |
皮膚の老化による腫瘍性増殖 | 紫外線は増悪因子 |
シミ治療にトレチノインとハイドロキノンを使わない理由
シミ(老人性色素斑、脂漏性角化症)の原因は長年の紫外線暴露により表皮基底層の角化細胞、メラニン細胞に遺伝子異常が起こったためです。異常となった角化細胞、メラニン細胞にもトレチノインとハイドロキノンの効果はあり、外用中はシミの色を薄くすることが可能です。しかし、トレチノインとハイドロキノンの中止により元の状態に戻ります。また、トレチノインとハイドロキノンのみでは異常となった角化細胞、メラニン細胞ともに破壊することは不可能で、シミを永久に消すことはないと考えています。シミ治療はレーザーで原因となる異常細胞を破壊し除去することです。
シミ治療はこちらを御覧ください。
肝斑への効果
肝斑とは
肝斑は女性の顔面にできる左右対称性シミです。30~50代の女性の顔面、とくに頬骨部、前額、鼻下に左右対称に出現します。色素斑は境界が比較的明瞭で均一な褐色調です。目の周囲が抜けるのが特徴です。
以下の特徴があります。
- 30歳前後からおこる両側性の色素斑で、頬骨部、前額、鼻下に好発する。
- 褐色で比較的均一なびまん性の色素斑である。網目状になっている場合もある。
- 症状に季節的変動があり、夏季に増悪する。
- 女性に多い。
- 目の周囲、髪の生え際、眉毛部には色素斑がない。
- 70~80歳以降になり、化粧をしなくなる年齢から軽快する傾向にある
- 繰り返しますが肝斑の原因は
- 洗顔、化粧時に顔を摩擦することでおきる「擦りすぎによる皮膚のバリア破壊」の結果出現する「炎症後色素沈着」であり、
- 紫外線は確実な増悪要因です。
肝斑治療にトレチノインとハイドロキノンを使う理由
肝斑の原因は洗顔時、化粧時に顔を摩擦することで擦りすぎによる「炎症後色素沈着」です。皮膚には摩擦により慢性的な炎症がおこっていて、正常なメラニン細胞が活性化してメラニン産生量が増えています。レーザーを使用するとメラニンは破壊されるので肝斑はいったん薄くなりますが、レーザー照射により炎症で再び炎症後色素沈着を起こし、肝斑は悪化します。また、繰り返しレーザー照射をおこなうと一部のメラニン細胞は破壊され、まだら状に白い部分が出現することがあります。こうなると肝斑の部位には色素沈着部と色素脱出部が混在して、まだらな色調になります。肝斑にはレーザー治療は避けるべきで、皮膚のターンオーバーを促し角質のメラニン量を減らすトレチノイン、皮膚のメラニン細胞のメラニン産生を抑えるハイドロキノンが治療に有用です。
トレチノインとハイドロキノンのみでなぜ肝斑はよくならないか
私は長いあいだトレチノインとハイドロキノンで肝斑の治療をおこなってきました。しかし、外用中は薄くなっても、外用を中止すると色調が濃くなる方がほとんどです。肝斑は『洗顔、化粧時に顔を摩擦することでおきる「擦りすぎによる皮膚のバリア破壊」の結果出現する「炎症後色素沈着」であり、紫外線は確実な増悪要因です。』と繰り返しの述べていますが、正しいスキンケアと徹底した紫外線防御をおこなわない限り肝斑は消えないのです。また、トレチノインとハイドロキノンを皮膚に擦り込めば、摩擦となり肝斑を増悪させることになります。したがって、私は肝斑では生活習慣に介入しないと治療は難しいと考えています。
当院では、フォトフェイシャルM22、トランサミン内服、スキンケア指導と紫外線対策をセットにした肝斑治療をおこなっています。この治療で残った肝斑に対してはハイドロキノン、あるいはトレチノインとハイドロキノン両方を使用します。
当院の肝斑治療はこちらを御覧ください。
ご案内
トレチノインとハイドロキノンは、「肝斑」または「当院で行ったレーザー治療後の色素沈着」に対してのみ処方しております。
料金 (税込み)
トレチノインジェル(0.04%) | ¥3,300 |
トレチノインジェル(0.2%) | ¥5,500 |
ロート社製 ハイドロキノンクリーム(6g) | ¥2,200 |
サンソリット社製 ハイドロキノンクリーム(30g) | ¥7,700 |